『インターフェロン無し HCV経口治療薬の研究紹介2.』
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- 2013.3.25
【 C 型肝炎に対するヌクレオチドポリメラーゼ阻害薬 「ソホス
ブビル」と「リバビリン」の併用 】
「N Engl J Med. 2013 Jan 3;368(1):34-44. doi:10.1056/NEJMoa1208953.」
『Nucleotide polymerase inhibitor sofosbuvir plus ribavirin for
hepatitis C.』
著者:Gane EJ, Stedman CA, Hyland RH, Ding X, Svarovskaia E,
Symonds WT, Hindes RG, Berrey MM.
*要旨翻訳は南江堂で翻訳された文章を引用しています。
背景:C 型肝炎ウイルス(HCV)感染に対する標準治療はインターフェロン
であるが、皮下注射で投与され、厄介な副作用を引き起こすことがある。
HCV 感染の治療として、インターフェロン制限レジメンとインターフェロ
ンを用いないレジメンにおいて、HCV ポリメラーゼの経口ヌクレオチド阻害
薬ソホスブビル(sofosbuvir)を評価した。
方法:計 8 群の患者に非盲検治療を行った。未治療の HCV 遺伝子型 2 型ま
たは 3 型感染患者 40 例を 4 群に無作為に割り付けた。この 4 群にはソホ
スブビル(用量 400 mg 1 日 1 回)+リバビリンを 12 週間投与した。この
うち 3 群には、ペグインターフェロンα-2a 投与もそれぞれ 4 週、8 週、
12 週間行った。これとは別の、未治療の HCV 遺伝子型 2 型または 3 型感染
患者から成る 2 群に,ソホスブビル単剤療法を 12 週間、またはソホスブビ
ル+ペグインターフェロンα-2a にリバビリンを併用する治療を 8 週間行っ
た。さらに、HCV 遺伝子型 1 型感染患者で、それまでの治療で効果が認めら
れなかった 10 例と未治療の 25 例の 2 群に、ソホスブビル+リバビリンを
12 週間投与した、治療後 24 週の時点でのウイルス排除(sustained virologic
response:SVR)率を報告する。
結果:無作為化された 40 例のうち,インターフェロン非併用でソホスブビル
+リバビリンを投与した 10 例全例(100%)と、ソホスブビル+リバビリンを
12 週間,インターフェロンを 4 週、8 週,12 週間投与した 30 例全例(100%)
に、24 週の時点で SVR が認められた。これとは別の HCV 遺伝子型 2 型また
は 3 型感染患者では、ソホスブビル+ペグインターフェロンα-2a にリバビリ
ンを 8 週間投与した 10 例全例(100%)と、ソホスブビル単剤療法を行った
10 例中 6 例(60%)に、24 週の時点で SVR が認められた。HCV 遺伝子型 1
型感染患者では、未治療の 25 例中 21 例(84%)とそれまでの治療で効果が
認められなかった 10 例中 1 例(10%)に、24 週の時点で SVR が認められた。
有害事象は、頭痛、倦怠感、不眠、悪心、発疹、貧血が高頻度に認められた。
考察:未治療の HCV genotype 1,2,3感染患者には、12 週間のソホスブビル
とリバビリンの併用が有効である可能性がある。
(Pharmasset 社、Gilead Sciences 社から研究助成を受けた。
ClinicalTrials.gov 番号:NCT01260350)
※コメント (本論文のintroductionやdiscussionの骨子と参考情報を加えて
います。)
近年、C型炎に対する治療が進んでおり、第一世代の治療薬プロテアーゼ阻害
剤であるテラプレビルやボセプレビルなどがあります。テラプレビルTelaprevir
(Incivek - Vertex;日本ではテラビックR錠250mg[田辺三菱製薬]が2011年9月
26日承認)とボセプレビルboceprevir (Victrelis - Merck;日本未開発)など
があり、世界中のC型肝炎感染患者にとって有効な治療薬として服用されています。
しかしながら、これらの薬は全てのC型肝炎罹患者に有効ではありません。HCV
genotype1をもつ患者に対しては、全体の約4分の1の患者に対しては効果がみ
られていないことや、プロテアーゼのみを基にした治療法だけでは効果がないこ
とが報告されています。また、HCV genotype2や3などには直接作用しないこと
がしられています。抗HCV治療の標準的な組み合わせにはペグ・インターフェロン
を含めることが必須であり、治療期間が24~48週と長期にわたります。
インターフェロンは副作用として鬱、疲労、血球減少を伴い、また週に1回皮下
注射が必要です。患者の多くは、インターフェロンがない治療を望んでいます。
理想的な抗HCV治療は、インターフェロンを含まない経口投与の治療法です。本論
文ではソホスブビル【以前はGS-7977と呼ばれていた。】慢性C型肝炎疾患治療の
経口投与薬として開発された直接的な作用をするヌクレオチド・ポリメラーゼ阻
害剤です。HCV特定的なNS5Bポリメラーゼの高度に保存されている活性化領域を
標的としています。
これまでにソホスブビル400mg 7日間服用したところ、HCV genotype 1型の患
者では、HCV RNAが顕著に減少したことや、ソホスブビル、ペグ・インターフェ
ロンα-2a、リバビリンの12週間にわたる併用療法でHCVウイルスが顕著に減少し、
24週間の治療後(HCV遺伝子2型、3型の患者25例中23例、HCV遺伝子1型では47例
中42例が持続的ウイルス学的著効(SVR)になったとの報告があります。本論文
では、ソホスブビルの安全性と有効性を調べるために第2a相の治験を設定し、様
々なインターフェロンの濃度(インターフェロンなし)を含めて HCV genotype
1、2、3の患者に治療の有効性をみました。日本人のC型肝炎感染者の大半は、
インターフェロンが効きにくいgenotype 1bの感染者が70~80%を占めています。
HIV/HCV重複感染している日本人血友病患者の内訳をみると、HIV陽性患者の場合
遺伝子型 1a 33%, 3a 21%, 1b:18% 2a:11%,2b: 11%, 4:7% HIV陰性患者遺伝子
型 1b 37%, 1a 25%, 3a:17% 2b:11%,2a: 5%, 4:3%, 1a+2b:2% 米国型の1aおよ
び 中近東に多いgenotype 4がみられ、インターフェロンが効きにくいタイプ
を罹患していることに特徴としています。
【出典元:慈恵医大誌 2012;127:141-149】治験の結果は、要旨に記載して
あるとおり、今までに治療を受けたことがないHCV genotype 1,2 ,3 感染患者
に対しても有効性を示唆しています。HCV genotype 1を感染していて治療を受け
た患者に対しては、1例のみが治療後24週で持続的ウイルス学的著効(SVR)とい
う結果に終わっています。これらの治療をうけた場合の副作用は、頭痛,倦怠感,
不眠,悪心,発疹,貧血が高頻度に認められたと記載されています。
日本人を対象とした論文報告では、第2a相の非盲検試験でHCV遺伝子型1b感染
既存の治療法で効果がみられていない10例の患者に対して治験をおこなってい
ます。NS5A 複製複合体阻害剤であるdaclatasvir やNS3Aプロテアーゼ阻害剤で
あるasunaprevirを併用療法で24週間治療を実施しており全9例の患者が持続的
ウイルス学的著効になったと報告しています。(Chayama K et al, Hepatology
2012; 55:742-748)、他に第2a相を実施した報告では、過去に治療をして効果が
みられなかったHCV genotype 1aを感染している患者を対象とした報告がありま
す。
ペグ・インターフェロン+リバビリンとdaclatasvir+asunaprevirを併用し
た場合では、短い期間で著しく効果があり、4つの薬剤を併用した場合は全10
例が持続的ウイルス学的著効となりました。(Lok AS, N Engl L Med 2012;
366:216-24) また、予備実験ながらも第2a相で本論文でも出ているソホスブ
ビル(sofosbuvir)+ daclatasvirを用いて、HCV genotype 1,2,3を感染して
いる未治療の患者を対象としての治験がおこなわれています。1日あたり用量と
しては、ソホスブビル(sofosbuvir)(400mg)+daclatasvir(60mg)+リバビ
リン(あり/なし)をおこないました。HCV genotype 1 の感染している患者44
例が、治験後4週間で持続的ウイルス学的著効となり、HCV genotype 2、3の患
者では、4週間後、持続的ウイルス学的著効が88%から100%になったと報告し
ています。このことから、HCV genotype 1,2,3を感染している未治療の患者
ではソホスブビル(sofosbuvir)+リバビリンの組み合わせで治療効果が得られ
たという予備実験の報告から、インターフェロンを用いず短期間で服用のみの
治療法が可能となることが示唆されました。
論文報告ではソホスブビル(sofosbuvir)とリバビリン+他の抗ウイルス治療
薬との併用のみでインターフェロンを必要としないため、実際の治療のさいに
はより患者負担が少なく、有効性が高いためこれから期待がもてます。
( E.M )