『HIV感染児における抗HIV薬投与の選択により、マラリヤ予防に効果の違いが...。ウガンダでの治験』
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- 2013.4. 4
[ ウガンダの HIV 感染児における抗レトロウイルス薬とマラリア予防 ]
『Antiretroviral Agents and Prevention of Malaria in HIV-Infected Ugandan Children
J. Achan and others』
「 N Engl J Med. 2012 Nov 29;367(22):2110-8. doi: 10.1056/NEJMoa1200501.」
Antiretroviral agents and prevention of malaria in HIV-infected Ugandan children.
著者:Achan J, Kakuru A, Ikilezi G, Ruel T, Clark TD, Nsanzabana C, Charlebois E,
Aweeka F, Dorsey G, Rosenthal PJ, Havlir D, Kamya MR.
*要旨翻訳は南江堂で翻訳された文章を引用しています。
背 景
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロテアーゼ阻害薬は,in vitro で熱帯熱マラリア原虫
(Plasmodium falciparum)に対して活性を示す.われわれは,HIV 感染児におけるマラリ
アの発生率は,ロピナビル/リトナビル配合剤をベースとした抗レトロウイルス療法(ART)
を受けている児のほうが,非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)をベースとした
ART を受けている児よりも低いという仮説を立てた.
方 法
生後 2 ヵ月~5 歳の HIV 感染児で,ART の適応があるか,現在 NNRTI をベースとした
ART を受けている例を対象とした非盲検試験において,対象をロピナビル/リトナビルをベ
ースとした ART 群と NNRTI をベースとした ART 群に無作為に割り付け,6 ヵ月~ 2 年間
追跡した.合併症を伴わないマラリアの症例にはアーテメター(artemether)/ルメファント
リン(lumefantrine)配合剤による治療を行った.主要エンドポイントはマラリアの発生率
とした.
結 果
176 例を登録し,そのうち 170 例が試験レジメンを受けた.内訳は,NNRTI をベースとし
た ART 群 86 例,ロピナビル/リトナビルをベースとした ART 群 84 例であった.
マラリアの発生率は,ロピナビル/リトナビルをベースとしたレジメンを受けた児のほうが,
NNRTI をベースとしたレジメンを受けた児よりも低く(エピソード回数 1.32/人・年 対 2.25
/人・年,発生率比 0.59,95%信頼区間 [CI] 0.36~0.97,P=0.04),アーテメター/ルメファ
ントリンによる治療後のマラリアの再発リスクについても同様であった(28.1% 対 54.2%,ハ
ザード比 0.41,95% CI 0.22~0.76,P=0.004).マラリアに対する治療後 7 日目のルメファ
ントリン濃度の中央値は,ロピナビル/リトナビル群のほうが NNRTI 群よりも有意に高かった.
ロピナビル/リトナビル群では,7 日目のルメファントリン濃度が 300 ng/mL を上回ってい
ることが,マラリア再発の 63 日リスクの 85%を超える低下と関連した.重篤な有害事象の発
生数は,ロピナビル/リトナビル群のほうが NNRTI 群よりも多かった(5.6% 対 2.3%,P=0.16).
瘙痒はロピナビル/リトナビル群で有意に多く,アラニンアミノトランスフェラーゼ値上昇は
NNRTI 群で有意に多くみられた.
結 論
ロピナビル/リトナビルをベースとした ART により,NNRTI をベースとした ART と比較して,
マラリアの発生率が 41%低下した.この低下は主に,アーテメター/ルメファントリンによる治
療後のマラリア再発が有意に減少したことに起因するものであった.ロピナビル/リトナビルを
ベースとした ART には,重篤な有害事象の増加が伴った.(米国ユニス・ケネディ・シュライ
バー国立小児保健人間発達研究所から研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 番号 )
コメント
(本論文のintroductionやdiscussionの骨子と参考情報を加えています。)
本研究の報告では、抗HIV薬、プロテアーゼ阻害剤であるロピナビル-リトナビルと抗マラリア
薬、アルテメテル・ルメファントリン治療薬を併用することによりマラリア再発が低下しました。
このことはリトナビルがルメファントリンのチトクロームP450 3A4の経路の代謝を阻害し、ルメ
ファントリンの血中濃度が高く保ち、薬剤の有効性が高くなったことが起因であるとしています。
本治験では、重篤な有害事象として、?痒が挙げられていますが、他に関してはみられません
でした。
スルファメトキサゾール - トリメトプリム(ST)抗菌剤や防虫剤を含む蚊帳は、HIV感染患者
の間のマラリアの頻度を低下させました。しかし、予防は不完全であり、このような予防を用い
てさえも、マラリアによる感染は変わらずに高いままです。従って、マラリア予防に対して新し
いアプローチをおこなうことは、公衆衛生の観点からも重要な優先事項です。抗レトロウイルス
治療薬のうち、プロテアーゼ阻害剤は、実験系ではマラリア原虫(アフリカにおけるほとんどの
マラリアの原因である)に対して効果を示しています。
HIV-1プロテアーゼは、マラリア原虫アスパラギン酸部位が、本来HIVプロテアーゼが標的とし
ている構造に類似しているため、マラリアを阻害します。ロピナビルは、もっとも強い阻害活性
を有し、ロピナビルーリトナビルの標準用量未満では再び活性化します。ロピナビルーリトナビ
ルは、現在、アフリカのHIV感染治療で入手可能となっているので、マラリア予防に対して重要
な薬剤であることが知られています。しかし、リトナビルは多くの薬剤の代謝系を阻害するので、
抗マラリア剤の相互作用となり拮抗する恐れがあります。アルテミシニンを基本とする併用療法
は、薬剤の有効性と安全性に影響を及ぼします。
本論文の筆者らはロピナビルーリトナビルを基本とするレジメンあるいは、非核酸系逆転写酵
素阻害剤(NNRT)抗レトロウイルスレジメン治療を受けているHIV感染ウガンダ小児に無作為に割
り当て、マラリアの発生率を評価しました。
抗マラリア薬剤に対する曝露の薬物動態的な向上の戦略により、感染率が高く、マラリア治療
後にマラリアの再発が高い地域において再発を抑制するには有効です。
アルテメテル・ルメファントリン合剤は、感染を除去するには有効ですが、治療後のマラリア
再発の危険性は非常に高いままです。防虫剤を処理した蚊帳やスルファメトキサゾール - トリ
メトプリム(ST)抗菌剤を用いても不十分であるため、ウガンダのようなマラリア感染が高い地
域では、治療後の再発予防が求められています。HIV感染児では、ART(抗レトロウイルス治療)
を必要としていて、マラリア予防のためにロピナビル-リトナビルを用いて薬理学的な向上が可
能になりました。
ロピナビル-リトナビルを用いずに抗マラリア用量のみを増やして、ロピナビル-リトナビルを
用いたコホートを観察したような効果は得られませんでした。薬剤の服用の増量で得られた効果
は、濃度をあげることで可能な効果よりはるかに強くなっています。リトナビル、HIVプロテア
ーゼ阻害剤の増量に関して、成果が示されています。さらに、用量を漸次的に増やしたところ、
ルメファントリンは過飽和吸収を示しています。
患児にNNRTIとロピナビル-リトナビルを比較したところ、無作為化して割り付けた治験では、
NNRTIと比較するとロピナビル-リトナビルの方がウイルス抑制の割合が高くなりました。この成
果もまた、ロピナビル-リトナビルの服用を裏付けるものとなっています。
現在、あらゆるレジメンの相対的な抗レトロウイルス有効性について、研究が活発に行なわれ
ています。これらの地域への我々の成果の応用は、マラリアによる感染がより抑えられたことが
挙げられます。また、長期に及ぶHIV有効性転帰を評価するために、コホートを追跡しています。
高価な薬剤、煩雑な保存を必要とする点は、ロピナビル-リトナビルを投与するさいには、低所
得の国では大きな課題となっています。しかし、薬剤の価格低下や、熱に対して安定的なロピナ
ビル-リトナビル構造を開発することで、低所得の国が抱えている問題に対して克服が可能であ
ることが示唆されます。
結論としては、薬物の代謝を変化させるプロテアーゼ阻害剤などの薬剤の用いることで、薬理
学的な増強によるマラリアのコントロールができる可能性があります。
ロピナビル-リトナビルを服用している小児群では、NNRTI群よりアルテメテル・ルメファント
リンを早期から治療して群の方が、投与後7日目でルメファントリンがはるかに高いことが報告
されています。このことは、NNRTI群と比較するとロピナビル-リトナビル群のほうが、マラリア
再発の危険性が63%低下してことと関連しています。
ロピナビル-リトナビルとの併用療法で、ルメファントリン曝露濃度が増加したことは、リト
ナビルによりチトクロームP450 3A4代謝経路が阻害されたことによります。このことは以前にも
健康成人で報告されています。対照的にネピラピンやエファビレンツはともにチトクロームP450
3A4代謝経路を阻害しますが、アルテメテル・ルメファントリンと併用療法でこれらの薬剤をど
ちらかを投与しても、ルメファントリン曝露を低下させる可能性があります。
アルテメテル・ルメファントリンの治療を受けているHIV未感染小児では、ネビラピン投与群
では、7日目にルメファントリン濃度は、本報告と同様でした。ロピナビル-リトナビル群のほう
が、NNRTI群よりもマラリア再発予防効果が高いのは、NNRTIによるチトクロームP450 3A4代謝経
路亢進より、ロピナビル-リトナビルによるルメファントリン代謝を阻害のほうがはるかに強い
ことを示しています。ロピナビル-リトナビルによりルメファントリンが高いことによる深刻な
有害事象の危険性が増加するなどの懸念は、有害事象である掻痒を除いてみられませんでした。
ハロファントリンは、QT間隔を延長させ、心臓の拍動の乱れとなります。本研究では、アルテ
メテル・ルメファントリン投与後、3日でQT間隔を延長がみられたことを指摘しました。本研究
での症例が少ないため、まれな事象であると仮定し、心臓疾患の可能性の評価は限定的なものと
しています。
ロピナビル-リトナビルとルメファントリンの併用投与の安全性については、将来の課題であ
ると本文では記載されています。
活性の低下に伴う遺伝学的モルフォリズムは、アルテメテル・ルメファントリンにより選択
されており、アルテメテル・ルメファントリン治療の有効性の経過観察することが示唆されます。
In vitroでロピナビルとルメファントリンの抗マラリア活性の相乗効果は、研究室での
P.falciparum株とこの研究の小児で得られた2種類分離された株で観察されています。
ロピナビルとルメファントリンの協調的な抗マラリア活性は、ルメファントリン曝露により、
長期的な予防効果が高くなった可能性があります。
無作為に割り付けた治験群では、小児のNNRTI治療群と比較してロピナビル-リトナビル治療
群は、NNRTI群と比較してロピナビル-リトナビル治療群の方が、ウイルス抑制が強いことを示
されました。
本成果は、ロピナビル-リトナビルの服用を裏付けるものとなっています。しかし、治験施
行の前後において、様々なレジメンの相対的なウイルス有効性は、一層の研究の精査が求めら
れます。
本研究で得られた成果をマラリア感染の低下につなげることは、特筆すべき事項です。長期
のHIV有効性の転帰を評価するために、筆者らはグループのコホートを経過観察していく必要
があると述べています。
(E.M)