≪ 抗HIV薬剤耐性に関する研究の紹介 NEJM8月号から≫
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- 2011.8.26
≪研究発表紹介
抗HIV薬に対する耐性:HIV治療薬への耐性の分析から、HIV標的遺伝子上に、
特定の薬剤クラスに対する体制を付与する部位が確認された。これらのデータ
は、世界でもサブタイプB以外のHIVが優勢な地域における有効な治療レジ面の
デザインにきわめて重要 2011年8月18日付「NEJM」から≫
Review Article
タイトル:【 抗レトロウイルス薬剤耐性の進化 】
(Development of Antiretroviral Drug Resistance)
著者:Mark A. Wainberg, Ph.D., Gerasimos J. Zaharatos, M.D.,
and Bluma G. Brenner, Ph.D.
出典:『 N Engl J Med 2011; 365:637-646August 18, 2011 』
要約 地理的場所にかかわらず、HIV感染の治療選択の最適化は、非常にさしせ
まった世界的な優先事項である。
現在の抗レトロウイルス治療法が幅広いHIVサブタイプに対して、効果的
であるようにみえることは心強い。
スタブジンやジダノシンなどを含む最適下限の治療法は K65R変異を
おこしやすくなり、次にあらゆる二次的な治療選択を狭める可能性がある。
さらに、最適下限のレジメンは患者にNNRTI耐性変異の進化の危険性にさ
らすことになる。
非サブタイプB感染パターンの薬剤耐性を把握することは、第一のレジ
メン選択を最適にし、耐性獲得を限られたものとするだろう。
用語説明
ジダノシン: 抗HIV薬。核酸系逆転写酵素阻害剤の一般名。化学名は
「ジデオキシイノシン、商品名はヴァイデックス」
スタブジン : 核酸系逆転写酵素阻害剤の一般名。日本では「サニルブジン、
商品名はゼリット」
K65R : 抗HIV薬の使用時にみられる標的酵素アミノ酸変異部位
HIV逆転写酵素 65番目K(リジン)→R(アルギニン)
NNRTI : 非核酸系逆転写酵素阻害剤
※コメント
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、独立した祖先から人間に感染する能力をも
ち、進化したHIV-1および HIV-2があります。
HIV-1の中にも4つのグループがあり、世界的に分布しているウイルスの多く
がグループM(major)に属し、サブタイプA~D, F~H, JおよびKサブタイプ間の組
み換え体であるCRF_01AE およびCRF_AGが知られています。
HIV-1の遺伝子多型は、その種類や頻度が人種により異なります。
日本のHIV感染者の多くが欧米型として知られているサブタイプBであります。
非加熱血液製剤による感染者由来のHIV、血友病薬害エイズ患者もこのサブタイ
プBです。同様に、男性同性愛患者のほとんどもこのタイプのウイルス患者です。
一方、異性間の性行為による感染者の間では、サブタイプBと東南アジアに由
来するCRF01_AEが多く見られます。
日本においては、主としてサブタイプBおよびCRF01_AEが流行しており、
サブタイプB(75%)、サブタイプCRF_01AE(20%)、残りが数%です。
HIVは変異しやすいウイルスであり、増殖のサイクルごとに様々な変異ウイル
スが出現していると考えられています。
このため抗レトロウイルス薬剤を用いた治療を継続し、効果を最大限にする
ために抗レトロウイルス薬剤耐性を把握しておくことは必要不可欠です。
現在、欧米で主流のサブタイプB以外の抗レトロウイルス治療剤に対する耐性
の研究はあまり進んでいません。本論文レビューでは、世界中でHIV 感染者の90
%をしめる非サブタイプBが、特定の抗レトロウイルス薬剤(ヌクレオチド系逆
転写酵素阻害剤、非ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤、インテグラ―ゼ阻害剤、
インテグラ―ゼ阻害剤、非融合阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤)に対して薬剤
耐性を付与するという事実を列挙しています。
これからの課題として、筆者は大規模かつ長期にわたる試験をおこなうことで
各サブクラスの特徴を把握し情報公開が肝要で、この情報を利用して発展途上国
など人的および経済的資源などが限られた地域で最適なレジメンの第一の抗レト
ロウイルス剤選択をしやすくなるだろうとしています。
このことは結果的に変異をしやすいHIVの薬剤耐性獲得を出来るだけ限られた
ものとし、治療をおこなううえで効果的であろうと述べています。
(E.M)