◇はばたき血友病情報(研究・開発) 「組み換え型ヒト第Ⅷ因子、非効率さの改善・大量生産を目指して 何とマウスミルク利用」
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- 2011.10. 5
タイトル:
【 遺伝子組み換え型ミルクの改変した機能的第VIII因子
とフォンヴィレブランド因子 】
( Functional Factor VIII Made with Von willebrand Factor
at High Levels in Transgenic Milk. )
著 者:Pipe SW, Miao H, Butler SP, Calcaterra J, Velander WH.
出典名:『 J Thromb Haemost. 2011 Sep 15. [Epub ahead of print] 』
要旨:動物細胞培養系での組み換え型ヒト第Ⅷ因子の現在の工程は、非効率的で
世界的な血友病A治療の要求にあう量には限りがある。
だが、組み換え型第Ⅷ因子は、トランスジエニックマウス、ウサギ、ヒツジ
およびブタの乳腺では非常に高発現している。
残念なことに、Bドメインのフリンプロセシングの結果へテロ二量体となり、
乳汁中に活性が低い状態で分泌されている。
目的:生物改変標的を用いて、トランスジエニックマウス乳汁中に活性のある組み
換え型第Ⅷ因子を産生することである。
方法:トランスジエニックマウスは、発現効率がよく、フリン切断部位がない安定的
なBドメインをもつ遺伝子改変された動物特異的(226/N-FⅧ)により作製された。
(訳注:226/N 第Ⅷ因子の遺伝子工学による改変した産物、第Ⅷ因子と同じ生理
活性を有し、通常の第Ⅷ因子より発現効率が格段によい。)
(226/N-FⅧ)はVWFと共発現あるいは単独で発現させた。(226/N-FⅧ)は、
ELISA法、ウエスタンブロット法及び1次元、2次元凝固アッセイをおこなった。
免疫アフィニティで濃縮した(226/N-FⅧ)の止血活性は、イン・ビボで血友病A
ノックアウトマウスに注射して測定した。
結果と結論:VWF共発現の存在下あるいは非存在下で生物学的に活性のある単鎖で
乳汁中に分泌された。(226/N-FⅧ)は、治療剤と同等の高い特異活性を保持したまま
であった。(226/N-FⅧ)は、以前に細胞培養で報告されていたものより450倍超IU/ml
高かった。(226/N-FⅧ)は、治療剤組み換え型第Ⅷ因子として、血漿由来VWFと同
等の結合活性を示した。トランスジエニックマウスで産生された(226/N-FⅧ)の静脈
注射で、血友病Aノックアウトマウス出血表現型が補正された。(226/N-FⅧ)の発現
を研究する証拠に基づいた原理やおそらくトランスジエニック家禽類の乳汁にも他の
単鎖の生物学的に改変された組み換え型第Ⅷ因子を示すものである。
※コメント
(肝移植以外)をもたない血友病患者にとって必須の治
療です。しかしながら、製剤を頻度高く注射したりす
る心理的および精神的負担があります。また、血漿由
来にせよヒト組み換え型にせよ、いづれにしても資源
が限られていることと効率の低い製造工程で費用が莫
大にかかることも問題です。本研究は、最新の遺伝子
工学を用いたものでヒト組み換え型第Ⅷ因子を大量に
生産する方法を動物実験でおこなったものです。現在、
市販されているヒト組み換え型の第Ⅷ因子凝固因子製
剤は参照図でみられるように、組み換えタンパク質産
生を目的としたヒト由来の細胞株を大量培養し、精製
しています。このため、生産量やコストがかかるなど限界があります。
遺伝子改変した226N/6(第Ⅷ因子中央のB領域を欠損したのち、226アミノ酸に6つ
の糖鎖をつけたものを挿入、産生量がもとの第Ⅷ因子と比較すると高い活性は同等)
遺伝子を用いて、トランスジェニックマウスを作製しました。
マウスの乳汁中にある遺伝子改変型第Ⅷ因子、226N/6を精製しました。このマウス乳
汁由来の226N/6は、生化学学的な分析、ELISA、SDS-PAGE、ウエスタンブロット、1段
階および2段階凝固アッセイで評価し同等であると評価しました。以前に報告されてい
た細胞培養由来のヒト組み換え型第Ⅷ因子と比較して450倍高い凝固活性を有していま
した。
一次止血や凝固カスケードでは、FⅧ-VWF複合体は重要な役割を果たすために必須であ
ることが近年分かってきています。このFⅧとVWFの間の相互作用は、この遺伝子改変に
よって得られた226N/6タンパク質でも同等の結合力を有していました。また、血友病A
ノックアウトマウス(遺伝子工学技術を用いて、人工的に第Ⅷ因子を欠損させたマウス)
に注入したところ、出血を補正したと報告しています。
本論文では、マウスのような個体が小さな動物で乳汁を回収したものを用いていますが、
これが個体の大きな動物、例えばブタなどを用いることで大量に産生できるのではと提
案しています。
遺伝子工学を用いた組み換え型製剤の開発は、本論文で紹介した方法以外にも遺伝子工
学を用いて、血中での活性時間延長を目的とした研究や活性そのものを増強・不活性化
阻止、インヒビター抵抗性に対する研究など日進月歩で進んでいます。
(E.M)