◇はばたき血友病情報(医療)「血友病患者、高齢化において動脈硬化がもたらす心血管疾患、一般男性リスクと同じ」
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- 2012.4.22
[ 血友病患者 高齢化での動脈硬化について ]
血友病患者の高齢化社会を迎え、動脈硬化のリスクは普通の人と
変わりなく、成人病対策として健康管理が重要であることが指摘さ
れています。
血友病患者は、これまで血液が固まり難いことから、血友病でな
い人に比べ、動脈硬化などからの脳や心臓の血栓・梗塞症を起こし
にくいのではと推測されていました。しかし、最近の症例検討等々
を通した知見から、リスクは変わりなく、ましてHIV感染被害を
受けた血友病患者においては高齢化の進み具合も早く早期検査と対
処が重要と考えられます。
治療の進歩から、高齢者世代が増え、一方で成人病症状が問題化
しています。まして、運動制限などから普通の人よりも運動量も少
ないため、効果的な日常のトレーニングができない人が多いのが現
実です。
心筋梗塞や脳梗塞を起こした時には、血栓をつくらない薬を服用
し続ける必要になるのと、血友病の止血管理のための凝固因子製剤
を補充するという対極的な治療を両立させなけらばならないコント
ロールが求められてきます。
これまでも紹介してきましたが、血友病患者の動脈硬化に対する
文献情報が、財団法人血液製剤調査機構・血液凝固因子製剤委員会
の「血液凝固因子製剤 文献情報 NO.64 平成24年3月」に出てい
ますのでご紹介します。
1.『 1210. 血友病A患者における冠動脈石灰化(第Ⅷ因子活性
の低下は動脈硬化に対して阻止的に作用しない)』
著者名 : Tuinenburg, A. et al.
雑誌名 : Arterioscler Thromb Vasc Biol 32: 799-804,2012.
【要旨】
血友病患者では、一般男性と比較して虚血性心疾患による死亡
率が低い。著者らは、血友病患者における凝固因子活性の低下が
動脈硬化の進展を抑制しているかどうか検討した。
冠動脈硬化の程度をマルチスライスCTで評価し、重症~中等
症血友病A(男性42例、59歳以上)と、非血友病男性613例とが
比較された。HIV感染者や心血管疾患の既往のある症例は除外さ
れた。冠動脈石灰化の程度は、Agatston score および石灰化量
で評価した。
Agatston score を自然対数化した血友病と非血友病の平均差
(β)は、0.141であった(p=0.709)。年齢、BMI、高コレステロール
血症、高血圧症、糖尿病薬内服で適合化しても、同様の結果であ
った(β=0.525、p=0.157)。石灰化量の検討結果も同様であった。
以上、血友病患者における冠動脈石灰化の程度は、非血友病
一般男性と比較して差は見られなかった。そのため、血友病患者
においても動脈硬化のスクリーニングや精査は重要と考えられた。
2. 『 1218.血友病患者における冠動脈石灰化指数と頸動脈内膜
複合体肥厚度 』
著者名 : Zwiers, M. et al.
雑誌名 : J Thromb Haemost 10: 23-29, 2012.
【要旨】
血友病患者が心血管疾患になりくいかどうかは議論となるとこ
ろである。著者らは、血友病患者における動脈硬化度を、冠動脈
石灰化指数(CACS)および内膜中膜複合体肥厚度(IMT)で評価した。
血友病69例(血友病A:51例、血友病B:18例、年齢中央値:
52才)を対象とした。心血管危険因子および主要心血管イベント
(MACEs)の情報を収集した。CACSは、電子ビームCTまたはdual-
source CTで検査し、頸動脈IMTはエコーで評価し、同年齢標準値
と比較した。
全血友病患者CACS中央値は35、IMTは0.8mmであり、比較標準値
と同等であった。MACEの既往のあった症例(n=9)では既往のなか
った症例と比較して、CACSおよびIMTは有意に高値であった(MACE
有vs.無/CACS:1,013 vs. 0、IMT:1.09mm vs 0.76mm, P<0.001)。
以上、今回のCACSとIMTによる検討からは、血友病症例は動脈
硬化の進展が抑制されている訳でもないと考えられた。
また、動脈硬化の程度は、従来より知られている心血管危険因
子と関連していたため、血友病患者においても心血管危険因子の
モニターを行い加療すべきと考えられた。
3. 『 1219. 第Ⅷ因子欠損は動脈硬化に対して阻止的に作用しない 』
著者名 : Biere-Rafi,S. et al.
雑誌名 : J Thromb Haemost 10: 30-37, 2012.
【要旨】
血友病A症例では心血管疾患による死亡率が低い。この理由が、
低凝固性によるものか動脈硬化が軽度であるためなのかは不明で
ある。
血友病Aのうち、肥満者51例(BMI≧30kg/㎡)および非肥満者
47例(BMI≦25kg/㎡)を、一般男性のうち肥満者42例および非肥
満者50例と比較した。
頸動脈および大腿動脈の内膜中膜肥厚度(IMT)、上腕動脈を用
いた血流依存性血管拡張(flow mediated dilatation : FDA)に
より動脈硬化と内皮機能の評価を行った。
全体での年齢は50±13歳であった。頸動脈IMTは肥満者では0.77
±0.22mmであり、非肥満者の0.69±0.16mmよりも高値となった(
P=0.008)。しかし、頸動脈&大腿動脈IMTともに血友病と非血友
病との間で差はみられなかった。
血友病肥満者の35%、一般男性肥満者の29%において動脈硬化
性プラークが検出された。
FMDも血友病肥満者と一般男性肥満者との間で差はみられなかっ
た。
肥満のある血友病患者では、一般男性肥満者と同様に動脈硬化
をきたすものと考えられた。
血友病患者においても心血管危険因子の診断と治療は一般男性
と同等に必要と考えられた。
※ 血友病患者の成人病対応は長期療養の将来過程で必須です。循環
器や内分泌の専門家が肝臓対応の消化器専門家に加え包括医療で重
要となってきました。そして、どうしても運動不足傾向に向け、エ
クササイズやリハビリ専門化も入っていただく必要もあります。
私ごとですが、冠動脈の石灰化による狭窄がみつかり、狭心症の
対応や今後の外科的治療についても視野に入れた循環器の専門家と
の連携をした治療をしています。
HIV感染被害が加わると抗HIV薬の副作用がより危険因子を高めま
す。
血友病の治療過程における年代毎の治療ステージがつくられてい
くことが必要でしょう。
(K.O)