◇はばたき血友病情報(研究開発) 「第Ⅷ因子は体のどこで産生されるのか、マウスの骨髄細胞移植で糸口が...」
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- 2012.3. 8
【血友病A発症に関係する、FVIIIは体のどの細胞で産生されるか、
解明の糸口になるのか、骨髄細胞移植からのアプローチ】
タイトル:『血友病Aマウスを補正するための骨髄細胞移植の役割』
(Role of bone marrow cell transplantation for correcting
hemophilia A in mice.)
出典:「Blood. 2012 Feb 24. [Epub ahead of print]」より
著者:Follenzi A, Raut S, Merlin S, Sarkar R, Gupta S.
SourceDepartment of Pathology, Marion Bessin Liver Research Center,
Albert Einstein College of Medicine, Bronx, NY, United States;
要旨:血友病の細胞学基礎を理解するために、FVIIIを産生する細胞を
特定する必要がある。
我々は、骨髄由来細胞が合成する能力を有し、健常マウス骨髄細胞
を血友病Aマウスに移植することによって、FVIIIを放出することが
可能かどうか決定した。
ドナー由来の細胞を追跡するために、我々は遺伝子レポーターを用
いた。複数の凝固アッセイを用いて、点在する細胞集団によって、
産生されたFVIIIが血友病Aを補正することを示した。血友病を補正
したことにより、健常骨髄細胞を移植したマウスは、出血したさいに
も生存した。
しかしながら、ドナー骨髄細胞由来の肝細胞や血管内皮細胞は、非
常に少なく、こうした細胞は、治療の利点を説明しえない。
対照的に、ドナー骨髄細胞由来の単核性細胞や間葉系基質はふんだん
にあり、FVIII mRNAやFVIIIタンパク質を発現した。
主に骨髄細胞か健常骨髄細胞由来の間葉系基質を起源とする
クッパー細胞(肝臓マクロファージ/単核球細胞)は、血中のFVIIIの
存在によって、出血から血友病Aマウスを守った。
従って、骨髄細胞移植は、ドナー由来の単核球や間葉系基質細胞に
より血友病Aを補正した。FVIII合成や別の種類の細胞の産生すること
から、このような洞察は血友病Aの病理学的メカニズムや治療の発展
を進めることになるであろう。
※
コメント:血友病を治療するには、現在のところ献血由来の血液凝固
因子や組み換え型の凝固因子を輸注する補充療法が中心です。
昨年末から年始にかけてはばたき医療情報でお知らせしている
通り、血友病治癒を目指した血友病B遺伝子治療に関しては
画期的な成果が出ています。
しかしながら、IX因子遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイ
ルスベクターを導入した肝細胞に持続的に血液凝固因子を産生
させることに関してまだまだ多くの課題を残しています。
また、第VIII因子に関しては、第VIII因子遺伝子治療は
遺伝子サイズが大きすぎてベクターに組み込むことがかなり
困難であることと分子生化学的なメカニズムが複雑すぎるため
あまり研究がおこなわれていないのかもしれません。
本研究では、そもそも第VIII因子は体の中のどの細胞で産生
されるかという根源的な点が、いまだに分かっていない現在の
血友病Aの分子生化学メカニズムに踏みこんでいます。
これによると、健常マウス骨髄を血友病Aマウスに移植した
ところ、マウスに出血をさせたさいに生存が示されました。
また、血友病Aマウスにはドナー由来の肝細胞や血管内皮
細胞がほとんどみられず、単核系細胞や間葉系細胞が多くみら
れました。
こうした細胞が第VIII因子を発現していることは、遺伝子
レベルのみならずタンパク質レベルでも確認されました。
本論文で得られた知見は、血友病Aの分子生化学的なメカ
ニズムを解明するほか、血友病Aの根治治療に対して大きな
役割を果たすことが期待されます。
(M.E)