後天性血友病Aに関連したインヒビター発生についての異なる知見報告
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- 2012.3. 8
タイトル:『血友病Aはイピリムマブより誘導される。』
(Hemophilia A induced by ipilimumab.)
著者: Delyon J, Mateus C, Lambert T.
出典: 「N Engl J Med. 2011 Nov 3;365(18):1747-8.」
To the editor: イピリムマブは細胞障害性関連抗原4に対するモノ
クローナル抗体で、概して、転移性メラノーマの患者の生存が良くなる。
主な副作用は、免疫関連有害事象である。我々は、イピリムマブ誘導
血友病Aの稀でかつ重症な症例を紹介する。
42歳男性2008年に転移性メラノーマと診断される。骨やリンパ節
転移後、標準的な連続的化学療法を受けた。(フォテムスチンおよび
シクロホスファミド)、新薬剤(GM307およびRAD001)やソラフェニブ。
彼の病気は肝臓、骨、腹腔内リンパ節に2010年に転移した。この
とき、イピリムマブ単独治療が、3週間ごと3mg/kg用量で開始された。
4回目の治療後、数日後、肉眼的血尿を報告した。ヘモグロビンは
7.6g/dlであった。膀胱結節切除は転移を示していた。分画した活性
部分トロンボプラスチン時間は(102秒)の検査では、第VIII因子阻害剤
(第VIII因子レベル)1%未満、インヒビター力価、26ベセスダ単位)
であった。
患者は、以前の手術では個人的及び家族の血友病歴は報告されておら
ず、こうした所見は、出血性転移膀胱により明らかになったので、
後天性血友病Aの診断を示唆している。
患者はプレニソロン治療を受け、止血剤(組み換え型第VII因子活性
化因子、ノボセブン、トラネキサム酸)を投与した。出血は2週間以内
に止まった。したがって、患者が緩和ケア病室に移るまで膀胱出血を
制御するために組み換え型活性化第VII因子7mgの1日4回投与は必要な
ままであった。
輸血は彼が亡くなるまで施行し、持続性の抗第VIII因子インヒビター
を示唆している。癌は後天性血友病Aの原因として良く知られている。
しかし、メラノーマの関連性は報告されていない。この症例では、
イピリムマブ投与後、第VIII因子インヒビターが2カ月後に診断された。
第VIII因子に対する自己抗体は薬剤により誘導される。
(例:ペニシリンおよびインターフェロンが報告されている。加えて、
イピリムマブは様々な免疫関連有害事象に関連していることを示して
いる。
転移性メラノーマの治療用のイピリムマブは最近、認められており、
この薬剤の使用頻度が増えている。医師はこの薬剤と関連性のある他
の免疫性疾患と共に、この報告した副作用を認識し検査しなければな
らない。
タイトル:
追加:『血友病Aはイピリムマブより誘導される。著者返答』
(More on hemophilia A induced by ipilimumab.)
著者:Lozier J.
出典:「N Engl J Med. 2012 Jan 19;366(3):280-1; author reply 281.」
To the editor: Delyon Jらは、メラノ-マのためのイピリムマブの
治療後、後天性血友病Aを説明している。
イピリムマブは免疫調節の可能性を有しており、従って、後天性
血友病の原因の可能性としては理にかなっている。関連性のある他の
要因では、アミノ酸シークエンスによる凝固因子第VIII因子に対する
曝露は、この患者には適合していない。
Tiede らは、後天性血友病の患者の一部は、第VIII因子に対する
曝露は、彼ら自身に適合していなかった。とりわけ、アミノ酸の
第VIII因子の多形性1241(Asp:アスパラギン→Glu:グルタミン)
および2004(Glu:グルタミン→Lys:リジン)である。
患者では、HLA-DRB1対立遺伝子、「外来性」第VIII因子変異体は、
新たなT細胞エピト―プの主要組織適合遺伝子複合体抗原の提示と
なる。患者が、血友病Aを発症する前に、患者が輸血を受けていた
かどうかは明らかではない。
イピリムマブ治療前に輸血を受けていたかどうかを知ることは
興味深いだろう。それゆえに、外来性の第VIII因子に曝露していた
可能性がある。
著者:返答
Lozier Jは、輸血による第VIII因子曝露が、第VIII因子遺伝子型
を有する患者で第VIII因子インヒビター構造を誘発し、後天性血友
病を発症させたと報告している。
我々の症例では、患者の第VIII因子の遺伝子型は確定しなかった。
だが、彼は、イピリムマブ治療前に数カ月間、いかなる血液あるい
は血液成分を治療していなかった。さらに、活性化部分トロンボ
プラスチン時間は、3回目のイピリムマブ投与まで正常であった。
(26秒、国際標準割合[INR]、0.9)。
まさに4回目の投与前(66秒、国際標準割合[INR]、2.2)に、血尿
の発現に伴い顕著に増加した。こうした所見は、我々の示唆が、
第VIII因子インヒビター発現がイピリムマブ投与のよるものである
ことを裏付けている。
用語説明:エピト―プ:エピトープ (epitope) は、抗体が認識
する抗原の一部分のこと。
Ipilimumab: イピリムマブ 訳注:特定の種類のがんに対する治療
の分野で研究されているモノクローナル抗体。
イピリムマブは製造ラボで合成され、T細胞(白血球の
一種)の表面上に存在するctla-4という分子に結合する。
イピリムマブには、ctla-4の働きを阻害することで免
疫系によるがん細胞への攻撃を助ける可能性がある。
「mdx-010」とも呼ばれる。
Fotemustine: フォテムスチン
脳腫瘍の治療と眼の転移性黒色腫の治療の分野で研究
されている物質。ニトロソウレアの一種である。
数多くのがんに対する治療に用いられ、その他のがん
に対する治療薬としても研究されている薬物。
小児に発生する一部の腎疾患に対する治療薬としても
使用されている。
Cyclophosphamide:シクロシクロホスファミド
ホスファミドには細胞内のdnaに結合する性質があり、
がん細胞を殺傷できる可能性がある。アルキル化剤の
一種である。「ctx」、「cytoxan」とも呼ばれる。
Sorafenib:ソラフェニブ
進行した腎がんと手術で摘出できない一部の肝がん
に対する治療に用いられる薬物。他の種類のがんに対す
る治療薬としても研究されている。
ソラフェニブには細胞の分裂を阻害する働きがあり、
腫瘍の増殖に必要な新たな血管の成長を阻止できる可能
性がある。キナーゼ阻害薬の一種であり、血管新生阻害
薬の一種でもある。「bay 43-9006」、「nexavar」、
「sorafenib tosylate(トシル酸ソラフェニブ)」とも
呼ばれる。
※
コメント: NEJMで発表された2報の論文は、後天性血友病を巡る両者
の見解を述べたものです。
前者が抗癌作用を期待して用いたT細胞を標的とするモノ
クローナル抗体であるイピリムマブ投与後に免疫修飾により、
第VIII因子インヒビターが発現したと論じているのに対して、
前者の論文報告および考察に対して、違う見解をもつ著者
らが自分たちの経験を報告しています。
すなわち、もともと変異体第VIII因子を有している患者が
輸血により、正常第VIII因子に曝露したことで、第VIII因子
に対するインヒビターが発現した可能性があるのではと述べ
ています。
最後に、前者の論文著者はこの事象の追加のデータを加え
ていて、患者の後天性血友病の原因が輸血に含まれている
第VIII因子によるものではなく、イピリムマブであることは
明らかだと主張しています。
ご紹介した2つの論文は、患者が後天性血友病になった症例ではあり
ますが、全く異なるメカニズムを経ていることが論文をみていると分か
ります。
両者の報告している後天性免疫病は、かなり稀な症例ではありますが、
興味深い所見だと思います。
(M.E)