◇はばたき血友病情報(研究・開発) 「 血友病A患者の、インヒビター発症について 英国例」
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- 2011.9. 7
タイトル:
【 英国における重症血友病者Aの生涯を通じての第VIII因子
インヒビター発症率 】
( Incidence of factor VIII inhibitors throughout life
in severe hemophilia A in the United Kingdom. )
著者:Hay CR, Palmer B, Chalmers E, Liesner R, Maclean R,
Rangarajan S, Williams M, Collins PW
出典:「 Blood. 2011 Jun 9;117(23):6367-70. 」
要旨:1990年から2009年まで、英国在住の全重症血友病者Aにおける年齢
に応じた新たな第VIII因子インヒビターの出現の発症率の解析をした。
経過観察期間中の中央値12年(四分位範囲)(4-19年)の重症血友病
者2528例のうち315例の新たなインヒビター出現が英国血友病データ
ベースに報告された。中央値6年(四分位範囲)(4-11年)の経過観察
後、5歳以上の患者で、315例中 160例(51%)が出現した。新たなイ
ンヒビター発症率は、5歳未満患者では、64.29/1000 治療・年、10~49
歳患者では5.31/1000 治療・年、60歳超患者では有意に上昇し、
(P=0.01)10.49/1000治療―年であった。
第VIII因子インヒビターは、血友病者Aの生涯を通じて2峰性の危険性で
出現し、乳幼児期と高齢で高い。HIVは、新たなインヒビター出現が有意
に少ないこととの関連性がみとめられた。
HIV血清反応性陽性患者のインヒビター出現率の割合は、HIV血清反応性
陰性患者の0.32倍であった。
高齢での第VIII因子のインヒビターの出現歴および、従来治療した患者の
インヒビター出現の他の潜在的危険性を調査する詳細研究が必要である。
▼参照図
※コメント
本研究は、英国の重症血友病者Aを対象として、1990年~2009年まで年代別
にインヒビター発症率の解析を大規模かつ継続的におこなったものです。
結果および考察で下記のことを著者らは下記のことをのべています。
○参照図にありますように、年代別にインヒビター発症(高力価インヒビター
および低力価インヒビター発症者もとともに)の2峰性がみられました。
○0~4歳に最初かつ最大のピークであり、その次の年代からは低下傾向(5~9
歳でも高い発症率)が、60歳以降から再び上昇しているとしています。(高力
価インヒビター発症者は50~59歳と早い段階で)
○HIV感染者では、インヒビター発症率がHIV非感染者のそれと比較すると、
0.32倍と有意に差があるともしています。
○HIVが偶発的にインヒビター発症消失をするという報告はありますが、HIVが
インヒビター構造を予防するということではない。
○HIV感染高齢者でも、再びインヒビター発症率が上昇することがみられた。
だが、対照となる症例数がすくないため分析できないとしています。
○経過観察期間中の全部をHAARTの治療がカバーしているわけではないので、
HAARTがインヒビター出現に影響を及ぼしているわけではないとしています。
○重症血友病者インヒビター発症が高い理由として、患者の平均余命が長くなり、
血液凝固因子曝露の機会(手術や集中的な補充治療)が増し、過去の免疫寛容が
破壊された可能性や加齢に伴う免疫機構の低下などを挙げて推測しています。
○重症血友病者インヒビター出現についてのメカニズムはよく分かっていないこ
とが多いため、今後の検討課題であるとしています。 (E.M)