◇はばたき血友病情報(研究・開発) 「遺伝子組み換え型凝固因子製剤は、インヒビター出現を高める可能性 イスラエルからの情報」
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- 2011.8.24
タイトル:
【 組み換え型血液凝固因子濃縮製剤はインヒビター出現を高める可能性がある:単一施設コホート試験 】
( Recombinant factor concentrates may increase inhibitor development:
a single centre cohort study.)
著者:
Strauss T, Lubetsky A, Ravid B, Bashari D, Luboshitz J, Lalezari S, Misgav M,
Martinowitz U, Kenet G.
出典:『 Haemophilia. 2011 Jul;17(4):625-9.』
[SourceThe Israeli National Hemophilia Center, Tel Hashomer Sackler Medical School,
Tel Aviv University, Tel Aviv, Israel.]
要旨 最近の報告によると、インヒビター出現の危険要因の可能性に関する関心が高まっている。
イスラエルでは、全血友病患者 (n=479) はイスラエル血友病センターにより追跡された。
患児の多くが新生児期に濃縮製剤を投与された。(割礼は生後8日目で施術された)。
血友病A患者 (HA) のコホートで、早期投与と組み換え型第VIII因子製剤 (rFVIII) 投与が
インヒビター出現に及ぼす影響が解析された。
HAの最初の徴候から継続して292患児症例を登録、7年の中位時間で追跡をした。
[最小―最大:9か月ー17年] 試験終点は第VIII因子に対するインヒビター出現であった。
さらに、急性静注あるいは「持続注入」などに適用された治療レジメンやインヒビター出現の
家族歴が調べられた。
経過観察中、31/292例 (10.6%)が高力価インヒビターを発症した。従来の血漿由来製剤によ
る22/249例 (8.8%) インヒビター出現と比較すると、新生児期にrFVIIIを投与されたHA患者
14/43例(32.5%)でインヒビターが出現した。
rFVIIIを投与されたHA患者のインヒビター出現のオッズ比は
3.43(95%信頼区間:(1.36-8.65)であった。
rFVIIIを投与された対象群でのみ、2/43 HA患児でインヒビターが一時的に出現した。
インヒビター検出の危険性は、持続注入されたHA患児対象群で有意に上昇した。(P<0.005)。
我々の経験により、早期に組み換え製剤を投与することによって、インヒビター出現が増悪する
可能性があることを示している。
さらに大規模な前方視的試験により、インヒビター出現に影響を及ぼす多重要因をさらに精査
する必要がある。
※コメント
血友病患者に対しては、通常欠損している凝固因子補充療法がおこなわれています。この補充療法
により、健常者とほぼ同じ生活が可能になりましが、治療の問題点としては、血液凝固因子に対する
抗体、インヒビターの発生を挙げられます。
患者は免疫が構築される胎児期に欠損因子を持っていなかったため、免疫寛容が起こりません。
このため、治療で投与した欠損因子にインヒビターができ、循環抗凝固因子となり治療に支障をきた
すようになります。
1970年代半ばから1980年代にかけてインヒビター産生リスクは血友病の重症度、インヒビターの家
族歴および民族性/人種により左右されることが明らかになってきました。また、インヒビター産生に
おいては患者の遺伝的特性が果たす重要な役割が示唆される知見がでてきています。
本論文では、イスラエル国民を対象としたもので、異なる人種背景と生誕後8日目で割礼という儀式
をおこなう文化的要因のため製剤を新生児から投与するという特殊要因があり、そのまま日本人に該当
するとは思いませんが、血友病患者にたいして早期に血漿由来血液製剤よりも組み換え型血液製剤を
投与することでインヒビター産生の割合が高くなることは特筆すべき事柄だと思われます。
(E.M)
統計用語
*オッズ比が1とは,ある疾患への罹りやすさが両群で同じということであり,1より大きいとは,疾患
への罹りやすさがある群でより高いことを意味する.逆に,オッズが1より小さいとは,ある群において
疾患に罹りにくいことを意味する.
*信頼区間:平均値の信頼性を示す統計的な指標で,母数の存在範囲の推定の指標となる数