[血友病治療に用いる血液凝固因子製剤、新薬続々 血友病医療のパラダイムシフト]
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- 2017.6. 9
血友病新薬続々
この1~2年、新しい血友病治療製剤(まだ補充療法の域だが)が、「これでどうだ」
「まだまだ、これではどうだ」と続々と登場してきている。この傾向は、まだ続くら
しい。昨年末に出された「日刊薬業(平成28年12月5日付)」に、「(血友病の新薬開
発)パラダイムシフトの予感」という記事が載っていた。内容をかいつまんで紹介した
い。
「静脈注射製剤しかなく、患者や家族の負担が大きい」「血液凝固因子製剤に対する
中和抗体(インヒビター)が発現した患者には効かない」といった既存薬の問題を一気
に解決できる可能性がある新薬の登場が近づいているところからの記載であった。
記事には、血友病についても触れられていて、血液凝固第Ⅷ因子が不足・欠乏する血友
病Aと第Ⅸ因子が不足・欠乏する血友病Bに分類される。
国内患者数はAが圧倒的に多く約5000人、Bが約1000人。世界全体では両方合わせ、把
握されている患者は約18万7000人で、潜在患者も含めると約40万人に上るとされている。
これまでは、血液凝固因子製剤を定期的に補充して出血を予防する「定期補充療法」も、
使用してきた血液凝固因子製剤は静脈注射だけしかなく、血中半減期から投与間隔も狭
い。生涯こうした製剤を補充し続ける患者や家族にとっては負担は大きい。
この負担を少しでも軽減するため、製薬会社も競争し、製剤投与間隔を広げるための
半減期延長製剤が開発・供給されるようになった。従来製品は一般に約週3回や隔日投与
だったのが、Aでは2015年「イロクテイト(約週1回)」16年に「アディノベイト(約
週2回)」が登場した。Bでは、従来製品だと約週2回投与だったのが、14年に「オル
プロリスク(約週1回、10日1回)」、16年に「イデルビオン(週1回~2週1回)が発売
されている。A、Bとも現在開発中のものがあり、さらに増える見通し。
「半減期延長製剤」といえども、静脈注射での投与負担は残されているのと、インヒビ
ター発現リスクの課題は残る。第Ⅷ凝固因子製剤投与でインヒビター発現はAの人で20~
30%、第Ⅸ因子製剤投与のBの人では数%ある。また静脈注射の定期的投与補充は「小さ
い子供への注射」「血管を探すのが大変な人」「高齢や機能障害が大きくになって自己注
射がしにくくなっている」
そうした患者にとっての課題も大きい。
そこで血友病A治療の課題克服のために開発され、先行しているのが抗ファクターⅨa/
Ⅹバイスペシフィック抗体「エミシズマブ」。同製剤は皮下注射での投与で、週1回投与
間隔と、これまでの静脈注射からの解放が期待されている。記事内容から、第Ⅸa因子に
よる第Ⅹ因子の活性化反応を促進し、先天的に欠損・機能異常を来している第Ⅷ因子の活
性を補うことで効果を示すのが特徴とされている。先にインヒビター保有の血友病A患者
に供給される。インヒビターなしの血友病Aの人には1年先に供給予定でもある。現在懸
念されている点は、定期投与として週1回投与していて、急なエピソード対応はこれまで
使用していた凝固因子製剤を静脈注射するため、小児については始めから皮下注射のみだ
と静脈注射が過程で投与できない可能性が出る。そのため、高齢者で静脈注射はもう面倒
くさいとか、血管確保が難しくなったり目がわるくなり血管も探しにくいといった大人向
けになるのではと患者間では話が出ている。
また、「エミシズマブ」以外で、新たな製剤の開発が進んでいるそうだ。血液の凝固を
阻害する抗TFPI(組織因子経路インヒビター)を抑制し、血液の凝固させるトロンビンを
産生することで効果を表す抗体医薬「Concizumab」。核酸医薬(siRNA)が肝臓に取り込
まれるようにし、血液の凝固を阻害するアンチトロンビンを抑制することで効果を発揮す
る新機序の製剤抗アンチトロンビン療法「fitusiran」の開発もあるという。
「エミシズマブ」は血友病A向け、「Concizumab」は、血友病A、Bの両方に効果が期
待できる。「fitusiran」もA、B両方に適応。既存の血友病製剤で発生が避けられない
インヒビターは、3剤とも発現しないのとインヒビター保有の有無に関係なく投与ができ
ること。半減期も長い。第Ⅷ因子活性のトラフ値(最低値)が高いレベルで維持ができ、
出血ゼロが期待できることは大きいと思う。
なお、懸念要因としては、「エミシズマブ」は中和抗体が発現して効果が減弱する可能性
がゼロではないという点や、インヒビター患者が出血が起こり、バイパス製剤を使用した
ときの血栓が生ずるリスク、抗体医薬は高額になることなどがある。これは「Concizumab」
も同様だと考えられる。「fitusiran」は核酸医薬のため中和抗体発現の心配はないそうだ。
あとは、海外で進められている遺伝子治療、だんだん実用化に向け開発や現に臨床段階も近
づいている。最近は血友病Aの遺伝子治療の話題が、「日刊薬業」(平成29年5月25日付)で
掲載されていた。米国でP1/P2試験を近く開始とのことだ。
一方、血漿由来の製剤評価も変わっている。血友病Bの患者で、血漿由来の第Ⅸ因子製剤
から半減期延長製剤に切り替えた人が、止血効果や体感的効果がいまいちで、なかなか出血
感が収まらないと訴え、元の製剤に戻しているケースも少なくない。インヒビター発現の患
者に対する治療(免疫寛容導入療法)においても、フォンビレブランド因子のついた血漿由
来の凝固因子製剤を使用した成績の良さも話題に上っている。まだまだ、血友病医療、凝固
作用機序解明には未解明な部分があると思う。
今後、国の研究班でも安全管理と監視指導を行うとともに適正な薬価管理、新たな治療法
や血友病根治療法の研究開発をすることで、患者・家族の安心した生活医療環境構築に臨ん
でもらいたい。
改めて、日刊薬業の記事「パラダイムシフトの予感 血友病の新薬開発」(平成28年12月5日
付 佐藤慎也氏)は良くまとめられていてとても参考になっていることに感謝申し上げます。