新しい細胞シート技術、血友病モデルAマウスで長期にわたり第VIII因子タンパク質の発現を活性化
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- 2014.2. 4
PLoS One. 2013 Dec 16;8(12):e83280. doi: 10.1371/journal.pone.0083280. eCollection 2013.
A Novel Cell-Sheet Technology That Achieves Durable Factor VIII Delivery in a Mouse Model of Hemophilia A.
Tatsumi K1, Sugimoto M2, Lillicrap D3, Shima M4, Ohashi K1, Okano T1, Matsui H2.
要旨:
遺伝子もしくは細胞による治療法は、血友病A治療の期待がもてる治療として凝固因子タンパク質を産生する移植系構築を目標としています。こうした新たな治療の方法の効率性と副作用に関して、いくつか問題が示されています。第VIII因子を移植し、増殖した血管内皮細胞を皮下移植するという方法は、現在おこなわれている細胞による治療法を改善するために、今まで使われていた二層吸収性支持マトリックスを排除し、それぞれ分散していた細胞を薄く連続的に単層が形成できるように新しい技術を用いました。既存の方法に比べると、私たちが用いた細胞シート・アプローチは耐久性がみられ、第VIII因子産生が3~5倍高くなりました。シクロヘキシミドによる一時的な免疫抑制により、第VIII因子体液性免疫が欠損している血友病Aマウスでは、(最大、正常時の11%)でした。
組織学的な研究では、増殖した血管内皮細胞(BOEC)シート移植後平坦な塊として形成され、長期にわたっていること、皮下外の血漿で第VIII因子産生が保たれていることが明らかになりました。私たちが開発した新たな組織工学では、遺伝学的に改良されたBOECシートが、血友病A患者で第VIII因子を安全かつ効率的に産生する可能性を示しています。
図の説明 A,B.C,D,E 細胞シート培養、単層細胞シート回収、切除、細胞シート移植、接合F長期間にわたり第VIII因子産生を保持、G移植後抗第VIII因子抗体(インヒビター)抗体価上昇H移植後、出血時間短縮
説明: イヌ第VIII因子組み込んだBOEC細胞を血友病Aマウスに移植後8週後、上段、ヘマトキシリンおよびエオシンで組織染色、M:筋肉、A:脂肪、N:BOEC細胞移植シートと結合組織を含む新規組織、M:筋肉 D:vWF フォン・ビル・ブレンドタンパク質、第VIII因子タンパク質に対する抗体を用いた免疫染色を行い、細胞内におけるそれぞれのタンパク質の発現を共焦点レーザー顕微鏡で観察、Merged:それぞれの発現場所を重ねたイメージ図。黄色はフォン・ビル・ブレンドタンパク質と第VIII因子タンパク質の細胞内局在が重複している箇所
コメント
近年、細胞シート工学技術が進んでおり、患者自身の細胞を培養組織化し、角膜、心筋、角膜、食道、歯根膜、膝軟骨などに応用がひろがっています。
血友病治療と細胞シートと結びつきは現在、東京女子医科大学外科で現在凝固因子第VIII因子の産生する肝臓、細胞シートでの治療の検討をおこなっているようです。
血友病遺伝子治療が体系的な遺伝子ベクターの管理が必要であることと比較すると、この新しい治療法であるBOECシートのアプローチは多くの利点があります。細胞移植前に、血管の基盤(プラットフォーム)を用意する必要がありません。このマウスで得られた研究方法や結果を実際の血友病患者に応用するには、まだいくつか問題が残されています。
おそらく、一番の問題は移植に用いる細胞シートをヒト用に充分な量を作製する必要があることが挙げられます。限られた空間で多層性の細胞シートを作製できる技術進歩も必要ですが、まだ研究段階にあります。いろいろ課題が挙げられますが、皮下外の空間を利用し遺伝的に生体外で改変した血管内皮細胞を移植することによって、長期間血友病Aモデルマウスの血友病Aを治療できたことは画期的なことであり、新たな方法として期待が高まります。