◇はばたき血友病情報(研究・開発) 「 軽症血友病A患者 加齢に伴うインヒビター発現にかかわる報告 オランダから」
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- 2011.9. 9
タイトル:
[ 加齢に伴い軽症血友病者のインヒビター出現の危険性が増加する。]
(Risk of inhibitor development in mild haemophilia A increases with age.)
著者:Mauser-Bunschoten EP, DEN Uijl IE,
Schutgens RE, Roosendaal G, Fischer K.
出典:「 Haemophilia. 2011 Aug 19.1365-2516.2011.[Epub ahead of print]」
軽症血友病者Aは相対的に軽症表現系であり、稀な疾患である。第VIII因子
(FVIII)治療は外傷や手術後に示されている。FVIII輸注は、FVIIIに対する阻害
抗体の発症の原因となっている。
前方視的コホート試験が、バン・クレベルトクリニック、ユトレヒト大学医学
センター、オランダに登録されている軽症血友病患者を対象として施行された。
(FVIII 0.05-0.40 IU m/l) FVIII投与最大、遺伝子変異およびインヒビター出現
の家族歴は1970年1月1日から2009年12月31日までの患者ファイルから入手した。
総計患者297例のうち231例が少なくとも1回はFVIIIを投与、14例が中央値50
有効量後の年齢の中央値66歳でFVIIIに対するインヒビターが出現した。
最初の投与時の年齢、最大投与時の年齢、最大投与回数およびArg593Cys変異は
有意にインヒビター出現と関連性があったが、一方で持続的投与では見なれな
かった。軽症血友病患者のインヒビター出現頻度は低いが、投与時年齢と最大
投与と共に上昇している。加齢とともに、軽症血友病者は合併症の頻度が高く
なり、外科的介入の必要やインヒビター出現の危険性にさらされやすくなるで
あろう。
とりわけ、593番目のアミノ酸アルギニンがシステインに置換している患者は
インヒビター出現の危険性が高い。
※コメント
血友病には因子レベルにより3種類、軽症、中等度および重症があります。
重症は因子活性が<0.01IU/mL(健常人の凝固因子1%未満)、中等度は0.01~0.05IU/mL
(1~5%)、軽症は(5%超~40%)であります。軽症血友病患者の臨床症状は重症
血友病患者のそれと比較するとそれほど顕著なものではありません。
軽症血友病者に対してインヒビターが特に出現するのは、集中的な凝固因子濃縮
製剤を投与したときとされています。また、Arg593Cys, Trp2229Cysなどのアミノ酸
変異凝固因子を有している患者はインヒビターを出現しやすくなり、インヒビター
出現が40%にのぼるとされています。
これらの患者はインヒビター出現後、9か月以内に免疫寛容が自然に起こり60%は
消滅すると報告されています。通常、インヒビター出現は軽症血友病患者にとっては
一般的ではありません。しかしながら、インヒビターが出現することにより、軽症
血友病者でも重症出血をおこすことにつながり、死にいたることもあります。
参考:MILD HEMOPHILIA WFH S.Schulman 著 - 2006 -
本論文では、軽症血友病者のインヒビター出現が加齢に伴い上昇すると報告してい
ます。
理由として挙げているのが、加齢とともに合併症の頻度が高くなり、外科的介入の
必要などで血液製剤を集中投与される機会が高くなり、インヒビター出現の危険性に
さらされやすくなるであろうとしています。とりわけ、第VIII因子593番目のアミノ酸
アルギニンがシステインに置換している軽症血友病患者はインヒビター出現の危険性
が高いとしています。インヒビターを発症した患者の止血療法はバイパス製剤(ファイ
バ、ノボセブンなど)が出血に対して有効です。また、インヒビター消失を目的とする
免疫寛容療法が挙げられます。この他に最近、リツキシマブがインヒビターを消失させ
る治療として最近報告があります。(E.M)
参考:HaemophiliaVolume 12, Issue 1, pages 7–18, January 2006
Rituximab for congenital haemophiliacs with inhibitors: a Canadian experience
*リツキシマブ(rituximab)は抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ抗体からなるモノクロ
ーナル抗体で医薬品。分子標的治療薬の一つである。
注射剤として製剤化されており、日本での商品名はリツキサン®