◇はばたき血友病情報(社会と生活) 血友病患児を出産するお母さんたち・家族が知っておきたい知識 胎児期および新生児期の血友病治療ガイドライン
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- 2011.12. 9
タイトル:[ 胎児期および新生児期の血友病治療ガイドライン ]
( Guideline on the management of haemophilia in the fetus
and neonate. )
著者:Chalmers E, Williams M, Brennand J, Liesner R, Collins P,
Richards M
Paediatric Working Party of United Kingdom Haemophilia
Doctors' Organization.
出典名:『 Br J Haematol. 2011 Jul;154(2):208-15. doi: 10.1111/j.
1365-2141.2010.08545.x. Epub 2011 May 9. 』
血液凝固因子製剤文献情報 NO.62(平成23年9月)
(財)血液製剤調査機構 血液凝固因子製剤委員会#1179~#1182
からの転載も含む
要旨:胎児や新生児の血友病管理に向けてのエビデンスに基づくガイド
ラインを提示する。
このことは新生児早期の妊娠や出産の対処や管理方法に関しての
情報を含んでいる。
出産の状態、頭蓋内出血および頭蓋外出血の危険性について議論
をおこなう。
※コメントおよび論文内容からの補足
血友病の子供を出産する場合は注意が必要です。
本ガイドラインは血友病の子供を出産するさいに医療関係者や両親が
あらかじめ知っておくべきことや処置法について詳細に述べております。
全部は列挙できないため、患者にとって参考と思われるところを選ん
で抜粋しています。原著は無料でダウンロードできますので、さらに詳
しく知りたい方はそちらを参照してください。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2141.
2010.08545.x/abstract
血友病患児を出産するさいは、一般の出産方法より注意を要します。
特に器具などを用いておこなう吸引分娩や鉗子分娩は出血のリスクが高い
ため避けなければなりません。
帝王切開は、あらかじめ計画的におこなうとした場合は上記の術式より
は出血リスクは低いことが分かっています。
また、侵襲的術式、例えば頭皮血液採取や新生児の頭に電極などの器具
を埋めてモニタリングすることは出血リスクが伴うため避けるべきです。
新生児の血友病診断は、母親の血液が混入していない臍帯血を用いるべ
きだとしています。
血友病AおよびBの診断は(APTT)活性化部分トロンボプラスチン時間を
用いて判別します。
血液凝固因子に異常がみられる場合は、この時間が長くなります。
血友病新生児の出血管理で、デモプレシン(DDVAP)は低ナトリウム血症
になる可能性があるため軽症血友病新生児に使用してはならないとしてい
ます。
血友病の確定診断がおわるまでの止血処理が求められる場合は、ウイル
ス不活性化凍結血漿を用いなくてはなりません。
また、組み換え型第VIII/IX因子製剤は、選択治療でありすぐに開始する
べきではありません。
硬膜外出血の検出のためにCranial USは感度が低いため、Cranial USが
正常であったとしても、血友病新生児にはコンピューター断層撮影(CT)や
MRIを考慮し実施します。
凝固因子製剤投与と予防投与に関して、重症血友病A患者では早期の
第VIII因子投与がインヒビター発症と関連性があることを示唆していますが、
製剤投与の時宜と用量に関する便益の可能性について不確定です。
血友病患児の診断が確定した後、出産に伴う外傷による出血時に補充療法
投与しなくてはなりません。このさい単回投与では防げない可能性があるの
で、用量や投与回数を増やすことがより有効です。
早産の場合も短期間の予防補充療法を行うべきとしています。
前述した全ての介入について医療関係者は両親と話あっておく必要があり
ます。
血友病の診断が確定したのち、すぐに在住地域の血友病センターに照会を
しなければなりません。診断と血友病の説明は、病院を退院する前に両親や
子どもを世話する人達と共には話し合っておかなければなりません。
退院後に、新生児の出血問題がおこる可能性があるので、新生児の両親は
ICHなどの大きな出血に関して、カウンセリングを受けておく必要があります。
両親が住んでいる地域の助産婦や一般医には、血友病のことを伝えておきICH
の早期徴候を知っておかなければなりません。
緊急時には、少量の凝固因子製剤を家庭で使えるよう渡しておく必要があり
ます。
保因者女性に関しては、新生児の間は出血問題の危険性は低いようです。
しかしながら、稀な症例で過度のライオニゼ―ション(*X染色体の不活性化
による遺伝子発現の抑制)により因子レベルが低いことがあります。
血友病AあるいはBの保因者女性で重篤な新生児出血は報告されておらず、
標準的な婦人あるいは胎児/新生児の対処でよいとしています。
血友病のこどもあるいはその可能性のあるこどもを出産し、その後の管理に
ついてはいくつか注意を必要とするところがあります。
器具を用いる吸引分娩や鉗子分娩は避けなければならないことや後遺症に
つながる可能性がある頭蓋内出血を防ぐために凝固因子製剤投与などの治療を
どうすべきかなど課題がありますので、出産を控えている両親自身があらかじ
め知っておくのはもちろんのこと医療関係者と緊密に連絡をとりあうことが
不可欠です。
(参照)
本ガイドラインは、1990年以降の関連論文を引用して作成された。
過去20年の間、血友病、妊娠、新生児などのキーワードを基にして、PubMed上に
でている論文(ヒト、臨床文献、英語)に限定して引用した。
本ガイドラインの草稿は、英国血友病センター医師会(UKHCDO)評議員のメンバー
によって修正され、血液学英国基準委員会の血栓・止血特別委員会や英国血液学
会顧問委員会によって審査された。
推奨の強さ、レベルおよびエビデンスの程度は、グレードシステムに準じている。
有害事象や治療費用を上回る便益がある「強く推奨」するはグレード1と表示。
便益がやや弱く確定しない場合は、「提案」はグレード2と表示している。
エビデンスの質が高いレベルの盲険化臨床治験の場合はA、中等度、低い場合は
それぞれB、Cである。
血友病AあるいはBは、X連鎖性疾患および母系の保因者を有する。それゆえに疾患
男児を出産する確率が50%ある。
血友病保因者と分かっている女性は、妊娠や出産を管理する機会が生じる。
母親や血友病胎児/新生児とともに出血の危険性が増すことを最小限に抑えるため
に、妊娠期間中の出血疾患を有する女性の出血管理が従来のガイドラインの主題で
あった。
明白な家族歴がある場合、妊娠は血友病患者を扱った経験があり、研究室モニタ
リングや因子補充療法利用を兼ね備えている産科によって管理されなければならない。
可能ならば、血友病センターと提携している産科で出産するべきである。血液学医、
産科医および新生児生理学者の間の良好なコミュニケーションは肝要である。
記載されている治療計画書は、医療関係者全員の同意が必要であり、すぐに利用可
能でなければならない。
全ての血友病のリスクを有するすべての新生児を知ることは出生前に不可能である。
分子学的研究によると、血友病と診断された症例の30%は新たな変異の結果であり、
個々の出血問題がない家族で最初の血友病患者となるか女性保因者となる。
明らかな血友病の家族歴がないことは出生前に確定しているわけではなく、周産期
中に不適切な対処や血友病診断の遅れにつながる。
1:出生前の注意
●血友病センターと密接に連絡をとり合って血友病胎児または可能性のある胎児であることに注意を払う(1C)。 |
●文書で治療計画書を準備する。この計画書は、熟練したチームからの情報を反映するべきであるし、母体および新生児の止血管理について記載されるべきである(1C)。 |
2:遺伝子スクリーニングと胎児の性別
●妊娠10週時の母体採血(Y染色体特異的なDNAシークエンスをチェック可能)または 18~20週時の超音波検査により、性別を確認するべきである(1C)。 |
●血友病胎児であるかどうかにより出産時の対処法が変わると予想される場合には、妊娠後期に羊水穿刺が考慮されることもある(2C)。 |
3:出産時の注意
●産科的および止血学的要因により出産法の情報を提供する。血友病胎児であること自体は経膣分娩の適応外とはならない(1C)。 |
●新生児の頭蓋内出血のリスクを低下させるために帝王切開が考慮されることがある。この場合、胎児の血友病の状態と母体の状態を考えて、個々の症例毎に検討する(2C)。 |
●吸引分娩や鉗子分娩は出血のリスクを上昇させるので避けるべきである(1A)。 |
●観血的な分娩モニタリングはさけるべきである(1C)。 |
●分娩の対処法は、必ず専門家に相談すべきである(1C)。 |
4:新生児の血友病診断
●出産後できるだけ早く臍帯血を用いて血友病の診断を行う(1C)。 |
●結果は、年齢(妊娠週)の一致した基準値と比較して判断されるべきである(1B)。 |
●APTTの結果の如何にかかわらず、臍帯血を用いてFVIII/IX活性の測定を行うべきである(1C)。 |
●血友病が否定されるまでは、ビタミンKの筋注を保留する。診断が遅れたり、血友病が確診された場合には、経口的にビタミンKを投与する(1C)。 |
5:血友病新生児の止血治療
●血友病A/Bに対して遺伝子組換えFVIII/IX因子製剤が治療選択肢となるため、用意すべきある(1C)。 |
●新生児の凝固因子活性が理想値に達するために高用量の凝固因子製剤を必要とするかどうか、血中半減期が短いかどうかについて、新生児期間中に補充療法のモニタリングが行われるべきである(1B)。 |
●血友病の確定診断前に止血治療が必要になった場合には、FPP15~25mg/kgが考慮される(1C)。*訳注: FPP: 新鮮凍結血漿 |
●血友病新生児の治療としてデスモプレシンは投与されるべきでない(1C)。 |
●他の新生児疾患スクリーニングのための足踵からの採血や静脈採血を省略すべきではない(1C)。 |
6:頭蓋内出血と頭蓋外出血の早期診断・予防
●臨床的に頭蓋内出血(または他の出血)が強く疑われた場合には、凝固因子製剤を速やかに投与すべきである(画像診断による確認まで保留してはならない)(1C) |
7:頭蓋内出血の放射線学的診断
●全ての重症および中等度血友病において、娩出前に頭蓋内超音波検査を行うべきである(2C)。 |
●超音波検査は硬膜下血腫の検出感度が低いために、超音波検査が正常であっても症状のある新生児では脳MRIまたはCTを行うべきである(1C)。 |
8:凝固因子製剤による新生児の予防治療
●血友病確診後に、出血リスクの高い新生児では短期間の予防補充療法をおこなうべきである。例えば、出産児に損傷があった場合、機器(特に吸引分娩や鉗子分娩)を用いた分娩、娩出に時間を要した場合などである(1C)。 |
●早産の場合も短期間の予防補充療法を行うべきである(1C)。 |
9:診断の情報開示
●血友病新生児の両親に対して、診断や出血症状の特徴などについて、退院前に情報提供 すべきである(2C)。 |
●退院前に血友病専門家による経過観察がなされるように手配すべきである(2C)。 |
10:女性新生児のキャリア
●血友病キャリアまたはキャリアの可能性のある新生女児では出血の心配はなく、通常の産科的および新生児の対処でよい(2C)。 |
免責条項
本ガイドライの助言および情報は、発行されている時期において事実かつ正確と思われる。著者、UKHCDO、英国血液学会および発行者は本ガイドラインの内容に関していかなる法的責任も負わない。