◇はばたき血友病情報(医療情報)「血友病A遺伝子治療の進歩、 京都大iPS細胞研究所・奈良県立医科大学のコラボで 早期実現を期待」
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- 2014.8.22
朝日新聞 平成26年8月16日 夕刊から引用
【血友病、遺伝子治療で治す 京大など、マウスで成功】
血友病のマウスを遺伝子治療で治すことに京都大学や奈良県立医科大学などのグループが成功した。今後、ヒトiPS細胞などに応用する。米科学誌プロスワンで16日発表した。
血友病は血液を固まらせるたんぱく質をつくれないか、足りないため、血がとまりにくくなる病気。重症の患者は数日ごとにこのたんぱく質の製剤を注射しなければならず、根本的な治療はない。このたんぱく質は肝臓でつくられるが、患者ではそれをつくる遺伝子が欠けている。京大iPS細胞研究所の堀田秋津助教らは、血友病のマウスの肝臓に、この遺伝子を特殊な運び屋分子を使って入れ込んだ。すると、このたんぱく質がつくられるようになり、300日以上効果が続いた。出血がとまりやすくなるなど血液を固める機能が回復したことも確かめた。今後、この方法で遺伝子を組み込んだヒトiPS細胞からこのタンパク質を出す肝臓細胞をつくって移植するなど、患者の治療への応用を目指すという。
原著:
PiggyBac Transposon ベクターを用いて血友病AモデルマウスAを治療
著者:Hideto Matsui1*, Naoko Fujimoto2,3, Noriko Sasakawa2, Yasuhide Ohinata4,5, Midori Shima6, Shinya Yamanaka2,3,7, Mitsuhiko Sugimoto1, Akitsu Hotta2,3,5*
出典:
PLoS One. 2014 Aug 15;9(8):e104957. doi: 10.1371/journal.pone.0104957. eCollection 2014.
本論文の特色
〇血友病A遺伝子ベクターを非ウイルス性ベクターであるPiggyBac Transposon Vector Systemを使用
〇非ウイルスベクターを用いているため、ウイルスに対する免疫反応や細胞毒性などの懸念がない。
〇血友病A遺伝子を全長いれるため、発現効率が高い。血友病Aマウスでは300日間持続的に発現(今まで遺伝子サイズが大きいため血友病A遺伝子を削って血友病A欠損型遺伝子を挿入していたため発現効率が低かった。)
〇インヒビター発現はみられなかった。
要旨:ウイルスベクターは血友病A遺伝子治療に用いられてきました。しかし、血友病A遺伝子のサイズが大きいため、第VIII因子(FVIII)cDNAは既存のベクターではうまく挿入できませんでした。さらに、ウイルスベクターは安全性の問題がでており、例えば、免疫学的な有害事象あるいは、ウイルスを介した細胞毒性などがあります。血友病A治療のために、全長第VIII因子cDNAを挿入するさいPiggyBac Transposon ベクターに基づく非ウイルス性ベクター遺伝子挿入システムの利点を使用しました。
ヒト293T細胞やiPS細胞で新規ベクターシステムベクターの効率性と活性感受性凝固アッセイを用いて全長第VIII因子の発現を調べ確認しました。水圧注入法によりPiggyBac Transposon ベクターを導入し免疫抑制剤で処理した血友病Aマウスは、安定的に循環第VIII因子を300日間、インヒビター抗体は発生せず持続しました。
さらに、tail-clipアッセイにより、治療を施した著しい血液凝固時間の改善がみられた。PiggyBac Transposon ベクターは長期間にわたる発現の促進を可能にします。
F8-KO:血友病Aモデルマウス A:血友病A遺伝子を挿入した血友病モデルマウスは出血時間が短縮された。 B:血友病A遺伝子を挿入した血友病モデルマウスの肝臓の組織染色をおこなった。発現確認
メモ
フナコシ ホームページから引用
ゲノムへの組み込み・除去が可能な発現システム PiggyBac Transposon Vector System
トランスポゾンを用いて非ウイルス的に,目的cDNA・miRNA・shRNA配列を宿主細胞のゲノムに組み込み,安定発現細胞株を樹立することができる発現システムです。また,一旦ゲノムに組み込んだ目的配列を,PiggyBac Transposaseにより痕跡を残さずに除去することができます。
特長
- 一度のトランスフェクションで,安定発現細胞株の樹立が可能です。
- ヒト・マウス・ラット由来細胞で使用できます。
- 10~100 kbの配列も導入可能です。
- 複数のベクターを同時に組み込むことも可能です。
- cDNA・miRNAの誘導発現が可能なCumate Switchベクターもあります(図3参照)。
- ゲノムに組み込んだ目的配列は,PiggyBac Transposaseにより高効率に痕跡を残さずに除去することができます。
- 高効率での遺伝子導入,iPS細胞の樹立,可逆的な遺伝子改変などに有用です。
論文のデイスカッションの要旨:血友病Aの遺伝子治療で用いるほとんどのベクターは、アデノウイルス、ガンマレトロウイルスおよびレンチウイルスなどのウイルスベクターを用いています。日本にいる血友病患者の中にはHIV感染している人がいるため、ウイルスベクターと患者自身が感染しているウイルスとの組み替えのリスクを避けなければなりません。また、ウイルスベクターを用いてウイルスタンパク質に対する免疫学的な反応による有害事象やベクターを介した細胞毒性などが問題として残っています。安全かつ効率のよい、安価な非ウイルス性ベクターが求められてきました。第VIII因子は遺伝子サイズが7.0kbと大きいため既存のウイルスベクターでは効率よく遺伝子を組み込むことができないなどの欠点があります。既存のウイルスベクターで第VIII因子の遺伝子を組み込むさいは、全長第VIII因子の中の必要でないBドメインを削ったBDD FVIIIの遺伝子を組み込んでいます。Bドメインはいくつかの糖鎖がつく部位があり、タンパクの制御や分泌などの細胞内の相互作用に関与していると思われています。Bドメインを削ることである状況下では、第VIII因子タンパク質の活性が低下するという報告もあります。近年、研究が進んでいるPiggyBac Transposon ベクターは非ウイルス性のベクターです。100kbの遺伝子も組み込むことができ、マウスES細胞などの生体細胞で発現が可能です。ウイルスベクターを用いて遺伝子導入するさいの煩雑な操作もなく、安価、安全、簡単な方法で目的の遺伝子を染色体に組み込むことが可能で効率のよい発現ができます。(E.M)
※
『血友病の根治を目指して! 薬害HIV感染被害を受けたHIV訴訟原告団が血液凝固因子製剤による薬害発生の教訓から、薬に依存せずにすむ治療法の解決を目指し、厚労省に要望し2000年度から「血友病の治療とその合併症の克服に関する研究」(血友病の治癒を導く血友病遺伝子治療の基礎確立と臨床応用、血友病インヒビタの産生解析とその抑制:自治医科大学 松田道生、坂田洋一研究代表者)の研究班やその研究の流れから、昨今は血液凝固因子製剤を注射しないでも済む治療・生涯を目指した機が熟してきました。血友病Bでは臨床応用も近いのではといわれていますが、血友病患者の多数を占める血友病Aの遺伝子治療の早期実用化が望まれていました。
自治医科大学、奈良医科大学、そして京都大学iPS細胞研究所から生まれてくる日本発の研究の実用化が早期にと待ち焦がれます。』