◇はばたき血友病情報(医療情報)「血友病インヒビター発現の免疫寛容療法導入不成功例にリツキシマブ単独服用より+ラパマイシン+IL-2/IL-2モノクローナル抗体併用療法がさらに効果的」
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- 2014.9.16
最新論文紹介「血友病患者のインヒビター発現に対する治療の紹介」
インヒビター発現に対してリツキシマブ+ラパマイシン+IL-2/IL-2モノクローナル抗体などの併用療法はそれぞれの単独服用よりFVIIIインヒビター発現抑制効果に対してさらに効果的である。
血友病患者は、凝固因子製剤の投与で免疫系が応答し第Ⅷ因子または第Ⅸ因子を異物として認識して、インヒビター(中和抗体)を発現します。インヒビターが発現すると、投与した凝固因子が中和され、製剤としての効果がなくなり、止血効果がなくなります。止血療法には血漿由来の活性型プロトロンビン複合体製剤と遺伝子組換え活性型第Ⅶ因子製剤であるバイパス製剤を用いる方法と凝固因子製剤を高用量投与おこなってインヒビターの消失を目的とする免疫寛容導入療法があります。免疫寛容導入療法の成功例は施行患者の2/3が成功しておらず、不成功に終わった場合の代替療法はマウスのヒトCD20に対する抗体のFabとヒトFcをキメラとして抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブの有用性が示されています。
リツキシマブに関しての最新の報告は
Thromb Haemost. 2014 Sep 2;112(3):445-58. doi: 10.1160/TH14-01-0078. Epub 2014 Jun 12. Rituximab for treatment of inhibitors in haemophilia A. A Phase II Study. Leissinger C et al. J Thromb Haemost. 2014 Jun;12(6):897-901. doi: 10.1111/jth.12579. Rituximab as first-line treatment for the management of adult patients with non-severe hemophilia A and inhibitors.
Lim MY1 et al.などがあり、上記の2つの論文とともにインヒビターを発現している血友病患者に対してリツキシマブが有効性を示しており、インヒビター発現が消失したことが記載されています。
筆者らは本研究で血友病Aマウスを用いて、リツキシマブにさらにIL-2/IL-2モノクローナル抗体と抗CD20抗体(リツキシマブ)+ラパマイシン(免疫抑制剤)を用いることでFVIIIに対するインヒビター抗体の活性の低下およびFVIII活性の上昇が抗CD20抗体(リツキシマブ)あるいはラパマイシン(免疫抑制剤)単独に比べるとさらに向上しました。このことから本論文の研究の成果は、FVIII特異的固体分泌細胞やメモリーB細胞を排除し、CD4+CD25+Foxp3制御性T細胞の数や機能を強化することによってFVIIIに対して免疫寛容を増強しました。
本研究の有用性は、すでにインヒビター抗体をもつ血友病A患者に対して併用療法の安全性と治療の有効性を強く示唆するものであると述べています。本治療の臨床的応用は、ヒト肝臓への遺伝子治療をおこなうさいにFVIIIに対する免疫寛容性の治療法となると述べています。
メモ: 制御性T細胞とはregulatory T cell, Treg、調節性T細胞とも呼ばれている。)は、免疫応答の抑制的制御寛容を司る細胞の一種。免疫応答機構の過剰な免疫応答を抑制するためのブレーキ(負の制御機構)や、免疫の恒常性維持で重要な役割を果たします。(社会福祉法人はばたき福祉事業団 M.E)
論文タイトル:インヒビターを発現する血友病マウスにおいて、抗CD20抗体は抗第VIII因子抗体への免疫応答を修飾するために併用療法でB細胞を標的とする。Anti-CD20 as the B-Cell Targeting Agent in a Combined Therapy to Modulate Anti-Factor VIII Immune Responses in Hemophilia a Inhibitor Mice.
出典:Front Immunol. 2014 Jan 6;4:502. doi: 10.3389/fimmu.2013.00502. eCollection 2014.
著者:Liu CL1 , Ye P2, Lin J2, Butts CL3, Miao CH4.
要旨:遺伝子導入産物に対する中和抗体は、血友病Aなどの遺伝病の治療で遺伝子治療後の主な合併症となっている。抗VIII(FVIII)抗体の構造を阻害するために、いくつかの方法が開発され奏功しているが、血友病患者がすでに抗FVIII免疫応答を示す場合に対する画期的な方法はいまだ不十分である。ある程度メモリーB細胞が残っているため、抗FVIII抗体が長期間、循環している。抗CD20はあらゆるB細胞を標的としている。(抗CD20前駆体/メモリー細胞)従って、血友病Aマウスでの抗FVIII免疫反応のB細胞欠乏の影響を、抗CD20は、調節T(Treg)細胞増殖と組み合わせ、IL-2/IL-2モノクローナル抗体の複合体とラパマイシンを用いて研究をおこなった。抗CD20抗体単独では、血友病患者及び非血友病患者の両方で抗FVIII免疫反応を調節する。さらに、抗CD20抗体+IL-2/IL-2モノクローナル抗体の複合体+ラパマイシンを治療したマウスでは、抗FVIII抗体価がB細胞あるいはT細胞を標的とするレジメンを治療したマウスと比較すると著しく低下した。さらに、FVIIIプラスミドを用いての2回目の実験後でも抗体価は低いままである。制御性T細胞+活性マーカーは、IL-2/IL-2モノクローナル抗体の複合体で治療をした集団では、一時的に著しく増加した。重要なことは、FVIII抗体特異的抗体分泌細胞やメモリー細胞などの両者は併用療法で治療したマウスでは顕著に低下した。本研究は、併用レジメンは抗FVIII抗体を調節するための治療選択として高く期待でき、血友病AマウスのFVIIIに対して長期寛容を誘導しやすくなる。
図3:A:抗CD20抗体+インターロイキン2/インターロイキン2モノクローナル抗体 複合体+ラパマイシン(免疫抑制剤)+FVIIIプラスミドを入れてもインヒビター抗体価変動なし。他のB,C,Dはそれぞれの単独でFVIIIプラスミドを入れたのち抗体価上昇、E 対照実験
Figure3|Immunomodulation with separate or combined therapy by IL-2/IL-2mAb complexes, rapamycin, and anti-CD20 in FVIII plasmid-primed hemophilia A mice with pre-existing inhibitors. Four groups of hemophilia A inhibitor mice were treated separately with different combined regimens: (A) IL-2/IL-2mAb complexes+rapamycin+ anti-CD20+FVIII injection (n = 4, group 1), (B) IL-2/IL-2mAb complexes+anti-CD20+FVIII (n = 4, group 2), (C) IL-2/IL-2mAb complexes+rapamycin+FVIII injection (n = 3, group 3), (D) anti-CD20+FVIII injection (n = 4, group 4), and (E) Control inhibitor mice (n = 2, group 5). Each experimental group was treated with indicated immunomodulation regimen weekly for 4 weeks. Anti-FVIII antibody titers were assessed by Bethesda assay over time. Each symbol represents data obtained from an individual mouse. Data shown is representative of three independent experiments.
Figure6|Depletion of FVIII-specific ASCs (Antibody-Secreting Cells) and memory B-cells in the inhibitor mice treated with IL-2/IL-2mAb complexes plus rapamycin and anti-CD20. Cells were isolated by MACS from spleens of naive (light slant), FVIII plasmid only (white), anti-CD20+FVIII (light gray), IL-2/IL-2mAb complexes+rapamycin+FVIII (dark gray), and IL-2/IL-2mAb complexes+rapamycin+anti-CD20+FVIII (black) treated mice (n = 2, each group) 2 weeks after treatment. (A) 3 × 106 cells were used to detect FVIII-specific ASC cells by ELISPOT assay. (B) 5 × 105 non-plasma cells were cultured and stimulated with FVIII at 10 U/ml for 6-days, and memory B-cells were detected by ELISPOT assay. Data shown are mean of spot numbers for each treated group (n = 2).
図6:A:抗CD20抗体+インターロイキン2/インターロイキン2モノクローナル抗体の複合体+ラパマイシン(免疫抑制剤)+FVIII 矢印部分:上記の併用療法により抗FVIII抗体分泌細胞数(ASCs)が顕著に低下→インヒビター抑制
B:FVIII特異的メモリーB細胞が喪失→FVIIIに対するインヒビター抑制
※以前(5-6年前)、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターに
在籍していた立川夏夫医師(現:横浜市民病院感染症科医長)のもとで、インヒビター
保有の血友病患者が、リツキシマブを使用した治療でインヒビターが消失した症例が
あり、使用法は難しいがリツキシマブ使用の導入を厚労省へ望んだことがあった。
近頃ようやくリツキシマブを使用した症例が海外文献を中心に目につくようになった。
多様な治療の選択の幅が広がることを常に要望していきたい。(大平)