調査研究事業
- 2015.1.16
はばたき福祉事業団の研究事業について
~患者参加型活動研究で生きる力を育て、医療福祉を創造する~
薬害HIV被害発生から30年あまりが経ちました。薬害HIV被害そのものが未曾有の被害であったことに加えて、その後の被害者・家族の長期的な生活影響や今後の不安もまだ続いています。今なお薬害HIV被害の影響下にある方々への支援活動はなお継続されなければなりませんし、原状回復医療や生活・人生の再構築への支援を目指す国の計画はまだ途上にあります。
はばたき福祉事業団では、そうした当事者の救済事業として行われるさまざまな計画が、具体的に被害者・家族の生活の向上に役に立つだけでなく、社会的な医療福祉のありかたに貢献できるよう研究活動を行っています。なにより、当事者団体らしいありかたとして、そして協働する方々とともに、薬害HIVに対する各個人の思いを込めて、さまざまな研究事業を展開しています。
具体的には、
- HIV薬害被害者の積極な救済を目指して、各方面の専門家とともに政策提言し実現を目指すこと
- HIV薬害被害者家族への生活の回復と、再構築を長期的な視野で包括的に支援を行うこと。
- 血友病の被害を踏まえ同様な慢性疾患を持つ子どものために、自立を目指した支援を国際的な
- 視野を持ちながら実現していくこと
- 遺伝、共有された決定、医師―患者関係、社会的孤立など医療倫理かつ心理社会的な課題を実践の中で解決していくための支援
など、今と将来のために必要としていることを優先に、そして、当事者や家族・支援に関わる人たち全員の気持ちに寄り添った取り組みを研究事業は実行しています。
研究事業はこれからも、具体的な支援や制度への提言、医療福祉や社会へのあり方の模索など、知恵と工夫を重ねていきます。これらは協働というあり方を前進させ、当事者の視点を従来の学問的な体系に導入する新しい取り組みを生み出してきました。専門知を非専門家の具体的な取り組みを補完したり、支援の現場の取り組みに対し、科学的な助言を提供するなど、研究活動によって生み出される価値をいかに多くの人たちと共有し、育てていくかという一連の活動のそれぞれすべてが、はばたきの目指す「患者参加型活動研究」であり、「生きる力を育て、社会福祉を創造する」という基本理念であると私たちは信じています。
研究事業は、大きな視野での問題解決への貢献も目指しています。たとえば、HIVは世界の三大感染症の一つですが、今なお解決されていない課題として、差別偏見といった大きな問題があります。「HIV=死」といったイメージを「HIV=生きる」といったイメージへ転換させ、具体的に治療や、就労や障害の克服、長期的な生活の質への意識や行動の転換を促すことが未解決の課題には含まれます。これらは「目に見えにくい」課題ですが、私たちの行う「研究事業」では、インタビューやデータを用いた科学的な手法を用いて可視化し、行動計画につながるようさらなる貢献をめざしています。研究事業としては、「患者が変われば医療が変わる」という感覚を社会全体で共有できるように、早期発見・早期治療といった予防医療を念頭に、そして就労など自立した患者像への貢献できるよう、病気に対する差別偏見といった課題を克服していきたいと考えています。
また、薬害HIV被害の発生によって、私たちは「命」の意味や価値、重さを改めて認識することができました。また、そのような被害にあっても「生活」を続けていくことがどのように未来につながっているか、それがいかに大変なことなのか、また差別・偏見というものがまず弱い立場にいる患者や家族の命や人生、そして生活を傷つけ、ひいては社会全体がまるで人間を「モノ」のように扱うように変わっていくような時代の流れを作っていくのか、私たちは真剣に考えざるを得ませんでした。
当事者活動の原点は、まずこの原点、過去の教訓を学ぶことから出発し、そして、実際の世界に多くの重要な課題を投げかけています。研究事業はそうした教訓や知恵、そして科学的な知見を重ねる中で新しい社会、特に医療福祉を創造するチャレンジを行っていきます。
特に、長い期間にわたり、持続的に生活を支え、ひいては社会の仕組みをよりよく変えていく地道な取り組みは、私たち一人ひとりが共有する課題です。そしてそこから、これからの時代に対する、生き方、考え方、どう取り組むべきか、大きなヒントが生まれてくるでしょう。